株式会社アイテム

7. 医師の確保

(1) なぜ「職域薬物検査」に医師が必要か

職域薬物検査は検査前の問診票やお薬手帳の提示、担当医師による事前相談窓口の開設から、検査が始まっていると考えなければなりません。
また、厚生労働省『労働者の個人情報保護に関する行動指針』で指摘しているとおり薬物検査の結果は究極の個人情報です。
検査の種類によっては、前述の『現在世界で出回っている薬物とその概要』の一覧表に示すとおり、多くの麻薬類は同じ成分で「医薬品」が作られています。
例えば鎮痛薬、咳止薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、睡眠薬など多くの指定薬物が医薬品として使用されていますので、「職域薬物検査」ではこれらの医薬品にも 「陽性」(交差反応といいます)を示す場合があります。
社内には、会社や上司・同僚には絶対に知られたくない持病や治療歴、健康状態などを秘密にしたい人がいらっしゃいます。
社員である前に人間として当然の権利ですから、これを犯すことは許されません。

さらに、一次(スクリーニング)検査で「陽性」 すなわち「非陰性」が確定した場合、外部の医学的分析を担当する専門検査機関に、「確認検査」を依頼しなければなりません。
契約のない企業や個人から突然、「確認検査」をオーダーして、果たして検査機関がタイムリーに検査を引き受けてくれるか疑問です。
基本的には契約のある医療機関を経由して「確認検査」を発注することを前提とした制度設計をすべきと思われます。

(2)医師が関与する「定期検査」

このような事情から、最初の1回目の薬物検査は、医師が関与する「定期検査」からのスタートが必須となります。
特に最初の1回目の検査は大変なボリュームの作業になりますが、これを無事に消化できると、あとは劇的に雑務が減少し効率よく検査が進められます。

繰り返しになりますが、従業員のプライバシーを尊重しつつ、正しく、公正な社内検査を確立するためには、最初は医師の関与する「定期検査」から始めることが重要です。
しかし、日本は深刻な薬物汚染問題が起きなかった事情(幸運)もあって、この職域薬物検査の分野においては、豊富な経験や知見を有する医師の数が圧倒的に不足しているのが実情です。

そこで、検査を引き受けてくれる医療機関を手探りで探すことになりますが、身近な「会社の指定医」や「産業医」等に定期検査を委託することで、トラブル回避とスムーズな検査の導入が期待されます。
「会社の指定医」「や「産業医」は「職域薬物検査」の経験は少ないかもしれませんが、社内の事情や会社の関係者とも面識があるため、 守秘義務や事前相談窓口、問診票、お薬手帳のチェックなど事前準備への協力が期待できます。

(3)医師以外の管理職が実施する「不定期検査」

職域における薬物検査の、一次(スクリーニング)検査はラテラル フロー イムノアッセイ(Lateral flow immunoassay)、別名「イムノクロマト法」とも呼ばれる「尿」または「唾液・口腔液」を検体とする簡易な検査手法ですので、一定の教育を受ければ社内の人員で検査を行うことも可能です。 現場検査 On-site inspection では管理職による簡易検査が実施されています。

実際の職域薬物検査は、休日・夜間を問わず職場単位で管理職が就業前に実施する「臨時検査」(アルコール検査と似たような方法) または、「(尿)検体採取」と「臨時検査」の両方を行う場合があります。

経験豊富な医師の数が極めて少ないのが現状ですので、検査のセッティングのお手伝いから医師の教育まで弊社でサービスを提供します。

(4) 医師の守秘義務と例外

そのほか「医師に課せられた「守秘義務」が検査結果や問診票、処方箋の添付、事前相談等、被検者の安心感・信頼感のよりどころとなりますので、特に最初の1回目の薬物検査には、医師の関与が必須条件となります。

医師には、職業上の守秘義務が課せられていますが、例外があります。

刑事訴訟法 第239条2項

官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。

と定められていますので、医師が所属する医療機関が国または地方公共団体が設置するものである場合、そこに勤務する医師は公務員の地位にあるので、犯罪事実を捜査機関へ通報する告発義務を負っています。

(5)米国の例

米国の代表的な制度を3点ご紹介したいと思います。

  • 1. MRO(医療審査員)
  • 2. SAP (薬物乱用専門医)
  • 3. D-Lab(公認 薬物検査ラボ)

1. MRO(Medical Review Officer):医療審査員

米国保健福祉省(HHS):薬物乱用精神保健管理局(Substance Abuse and Mental Health. Services Administration, SAMHSA)

日本では企業の産業医又は会社の指定する医療機関がこれに近い存在かと思われます。

2. SAP(Substance Abuse Professionals):薬物乱用専門医

薬物乱用専門家(SAP)は、DOTの薬物およびアルコールプログラムの規制に違反した従業員を評価し、教育、治療、フォローアップテスト、およびアフターケアに関する推奨事項を作成する

3. D-Lab(Drug testing laboratories):公認された「薬物検査ラボ」

企業と契約して従業員の薬物検査(尿検体を受け取って検査を行う民間機関)
アメリカ合衆国保健福祉省認証(Drug testing laboratories certified by the Department of Health and Human Services)は全米で約20社ほどあり各地に検査ラボを展開しています。