職域薬物検査
職場の薬物検査の仕組み

実施とタイミング
- (1)雇用前検査
-
- ・薬物の無い職場法(米国)」に記載されている、薬物使用者を採用しないための基本的検査。
- ・医療機関と連携して「雇用前健康診断」と一緒に検査されることを推奨致します。
- (2)定期検査
-
- ・年に1〜2回実施される「定期健康診断」時に、全社員(アルバイト・臨時職員含む)を対象に行う検査。
- ・違法薬物のほかに処方薬や市販薬等の依存症、またはその傾向・過剰摂取等が検知されます。
- (3)不定期・臨時検査 米国運輸業界で「Random」と呼ばれます。
-
- a. 不定期検査
- 検査実施の日時は不開示、不公平感が出ないよう予定表を作って均等に実施します。
*「DOT規則は、商業ドライバーの不定期検査は年6回程度」と規定。
- b. 抜き打ち検査
- 現場などで予告なく実施。
- c. 臨時検査
- 重大な事故、インシデント、薬物事件等が起きた際に実施。
- d. 指名検査
- 薬物の使用が疑われる客観的な状況が認められた場合に実施。
- e. 配属前検査
- 薬物検査が必要な部署への配属前。
薬物検査の仕組み
一次(スクリーニング)検査と二次(確認)検査の2段階検査法が基本となります。(上記(1)「雇用前検査」を除く)

(1)一次(スクリーニング)検査:DAST Drug of Abuse Screening Test

集団から「薬物使用者」を選別(篩にかける)検査です。
- ☆ ラテラル フロー イムノアッセイ(Lateral flow immunoassay)、別名「イムノクロマト法」とも呼ばれます。
- ★ 迅速・簡便な検査手法の一つで、妊娠診断、インフルエンザ診断、Covid-19検査等のPOCT(Point of care Testing:臨床現場即時検査)の分野で広く普及しています。
- ★ 複雑な装置類を必要とせず、使い捨て・誰でも簡単操作・低コストの検査方法です。 検体とキャプチャー抗体の反応による2つのカラーライン(Test / Control)の発現を、目視または光学読取機により判定します。
定性検査とは、規定のCut-off(閾値)を超えると「陽性」、数値が下回ると「陰性」、どちらかの反応が出ます。
(2)二次(確認)検査:DACT Drug of Abuse Confirmatory Test

GC:ガスクロマトグラフィー装置例
◎ スクリーニング検査の結果「陽性が疑われる」検体は、外部の検査機関に医学的・科学的な手法による高度な「確認検査」を依頼します。 定性検査 規定のCut-off(閾値)を超えると「陽性」、数値が下回ると「陰性」、どちらかの反応が出ます。
主な検査方法
- ※-1 GC/MS : Gas Chromatography/Mass Spectrometry(ガスクロマトグラフィー質量分析法)
- ※-2 HPLC : High Performance Liquid Chromatography(高速液体クロマトグラフィー)
(3)薬物検査(尿)のCut-off値(一・二次)
【図-04】薬物検査(尿)のCut-off値
No | 略号 | 日本名 | 概要・俗称等 | 検出時間 | DOT規制 | 一次検査Cut-off | 二次検査Cut-off | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
最短(時間) | 最長(日) | |||||||
1 | AMP | アンフェタミン | 覚醒剤「Smart Drugs」 | 4~6 | 2~3 | ○ | 500ng/mL | 250ng/mL |
2 | M-AMP | メタンフェタミン | 覚醒剤「アイス」「シャブ」 | 4~6 | 2~3 | ○ | 500ng/mL | 250ng/mL |
3 | BZD | ベンゾジアゼピン | 抗不安薬・睡眠薬 | 2~7 | 1~4 | 1,000ng/mL | 1,000ng/mL | |
4 | COC | コカイン | 麻薬・局所麻酔薬「クラック」「ロック」 | 2~6 | 2~3 | ○ | 150ng/mL | 100ng/mL |
5 | MDMA | エクスタシー | 幻覚剤「エクスタシー」「Molly」 | 2~7 | 2~4 | ○ | 500ng/mL | 250ng/mL |
6 | OPI | オピエート | 「阿片」「モルヒネ」「ヘロイン」 | 2~6 | 1~3 | ○ | 2,000ng/mL | 2,000ng/mL |
7 | PCP | フェンサイクリジン | 幻覚剤「エンジェル・ダスト」「ケタミン」 | 4~6 | 7~14 | ○ | 25ng/mL | 25ng/mL |
8 | THC | テトラヒドロC | マリファナ(大麻葉)、ハシッシ(樹脂) | 1~3 | 1~7 | ○ | 50ng/mL | 15ng/mL |
9 | LSD | リゼル酸ジエチルアミド | 幻覚剤「ペーパー」「アシッド」 | 1~2 | 2~4 | 20ng/mL | N/A |
(4)薬物の検出可能時間
体内残留薬物の検出可能時間 (年齢・男女・体格・薬物使用頻度等により変動します)
No | 略号 Abbreviation |
薬物名 Drug Name |
検出期間 Detection Time |
|
---|---|---|---|---|
最短 | 最長 | |||
1 | AMP | アンフェタミン | 4-6 hours | 2-3 days |
Amphetamine | ||||
2 | m-AMP/MET | メタンフェタミン | 4-6 hours | 2-3 days |
Methamphetamine | ||||
3 | BAR | バルビツレート | 2-4 hours | 1-3 weeks |
Barbiturates | ||||
4 | BUP | ブプレノルフィン | 2-6 hours | 2-4 day |
Buprenorphine | ||||
5 | BZO | ベンゾジアゼピン | 2-7 hours | 1-4 days |
Benzodiazepines | ||||
6 | COC | コカイン | 2-6 hours | 2-3 days |
Cocaine | ||||
7 | MDMA | エクスタシー | 2-7 days | 2-4 days |
Ecstasy | ||||
8 | MTD/EDDP | メサドン | 3-8 hours | 1-3 days |
Methadone | ||||
9 | OPI (MOP,MOR) | オピエート | 2-6 hours | 1-3 days |
Opiate | ||||
10 | OXY | オキシコドン | 1-3 hours | 1-2 days |
Oxycodone | ||||
11 | PCP | フェンサイクリジン | 4-6 hours | 7-14 days |
Phencyclidine | ||||
12 | TCA | トリサイクリック・アンチディブレサント | 8-12 hours | 2-7 days |
Tricyclic・Antidepressants | ||||
13 | THC | テトラヒドロカンナビノール | 1-3 hours | 1-7 days |
Marijuana | ||||
14 | LSD | リゼルグ/リゼルギン酸・ジエチルアミド | 1-2 hours | 2-4 days |
lysergic acid・diethylamide | ||||
15 | ZOL | ゾルピデム | N/A | 1-7 days |
Zolpidem | ||||
16 | K2/Spice | 「スパイス」 | N/A | 3-4 days |
Synthetic・Marijuana | ||||
17 | FEN | フェンタニル | N/A | 2-3 days |
Fentanil | ||||
18 | TML | トラマドール | N/A | 2-3 days |
Tramadol | ||||
19 | PPX | プロポキシフェン | 6-12 hours | 7-14 days |
propoxyphene |
- ☆ 検出可能時間には「最短時間」と「最長時間」があります。
なお、薬物使用の量・頻度、性別・年齢・体格・基礎代謝等により検出可能時間は大きく変化します。
- 最短時間
- 薬物を使用した後「尿から検出」できるまでに必要な時間
- 最長時間
- 薬物成分が「尿から検出」できなくなるまでの時間
2009年夏、薬物使用の疑いで逮捕状が出た有名女優(SN)が約1週間、自ら行方をくらました事件がありました。
当初は自殺を心配されていましたが、実際は薬物検査に反応しないよう「体から薬が抜ける時間を稼ぐため逃亡」していたことが判明し、世の中に少なからぬ波紋を与えました。
インターネットなどの情報で、多くの乱用薬物は摂取後2-4日程度でスクリーニングの尿検査で検出できなくなることは既に多くの人に知られています。
- ☆ 薬物検査は「不定期検査」「臨時検査」が基本となります。
事前に検査情報が漏れるとこのような事態を招き、検査の有効性が失われますので注意が必要です。
(5)スクリーニング検査の精度
- ● スクリーニング検査の精度は100%ではありません。
- ◎ スクリーニング検査の「陽性反応」だけでは、「陽性」と断定できません。「確認検査」の結果で断定します。
- 疑陰性
-
- ・ 薬物を使用後の時間経過でCut-off値に達しない。(例:金曜日の夜覚醒剤を使用し、翌週金曜日に検査した場合)
- ・ 薬物の使用頻度・量・体格・性別・年齢・基礎代謝等により、体内に残留する薬物の濃度が変わります。
- ・ 検体の検証と妥当性の確認V&Vの不徹底(尿の持ち込み・すり替え・希釈・混和・妨害剤等)により「疑陰性」は起こります。
- 偽陽性
-
- ・ 処方薬や市販薬、一部の食品によって「偽陽性」が発生する場合があります。
- ・ 偽陽性の発生を回避するために「問診票」「処方箋控えまたはお薬手帳」等の事前情報の収集が必須となります。
- ・ 医薬品による「偽陽性」の判断は、MRO (Medical Review Officer:薬物の知識を有する医師)でなければなりません。
スクリーニング検査の精度Accuracy
Drug | 陽性の場合 一致する割合 |
陰性の場合 一致する割合 |
全体の場合 一致する割合 |
---|---|---|---|
AMP | 92.5% | 97.5% | 95.0% |
mAMP | 96.7% | 100.0% | 98.4% |
BAR | 97.5% | 100.0% | 98.8% |
BZO | 95.8% | 100.0% | 97.9% |
BUP | 97.5% | 98.3% | 94.6% |
COC | 90.8% | 98.3% | 94.6% |
MDMA | 98.3% | 98.3% | 98.3% |
MTD | 97.5% | 98.3% | 97.9% |
OPI300 | 97.5% | 99.2% | 98.4% |
OXY | 96.7% | 97.5% | 97.1% |
PCP | 96.7% | 98.3% | 97.5% |
THC | 100.0% | 96.7% | 98.4% |
TCA | 98.3% | 97.5% | 97.9% |
- ※TCAはHPLC
- ※GC/MS:Gas Chromatography/Mass Spectrometry(ガスクロマトグラフィー質量分析法)/HPLC:High Performance Liquid Chromatography(高速液体クロマトグラフィー)
乱用薬物検査キットが活用される分野
- ● Medical certificate
- VISA申請、外国企業への就職、特定の職業等に必要な「麻薬や薬物を乱用していないことを証明する診断書」のための検査
- ● D.A.S.T. Drug of Abuse Screening Test
- 職域等において、雇用者が行う“乱用薬物の使用者の有無を調べる”スクリーニング検査
- ● Zero-tolerance policy
- 米国の高校・大学その他の学校、寄宿舎等において、薬物乱用者の入学・在学を拒否する「不寛容」の宣言。このポリシーに基づくルールで薬物スクリーニング検査及び処断が行われる。
- ● Secondary Survey
- 救急救命医療センターなどにおける意識不明患者の体内薬物スクリーニング検査
- ● Criminal investigation
- 警察及び厚生労働省麻薬取締部の薬物事犯の取り締まりにおける検査
- ● Legal drug test
- 法務省:仮釈放者及び保護観察者等の薬物検査
- ● Driver drug test
- 交通警察隊による検問・不審な車の挙動・違反行為・交通事故を起こした運転手に対する薬物検査
- ● DOT drug test(DOT米国運輸省規則に基づく検査)
- 航空機、船舶、鉄道、大型トラック・バス・ タクシー等の事業者に義務付けられた薬物検査(日本では法規制未整備)
- ● Drug Abstinence management
- 「断薬マネジメント」の検査
乱用薬物検査が活用される分野
-
乱用薬物を使用していないことの証明書
Drug Free Certificate
違法薬物を摂取していない証明(診断書)- ・ 外資系企業入社・留学・赴任・移住等のVISA申請
- ・ 「麻薬・阿片・大麻・及び覚醒剤の中毒者ではない」医師の診断書が必要な免許、職業、職種等
医師・歯科医師・保健師・助産師・看護師・准看護師・臨床検査技師・理学療法士・作業療法士・視能訓練士・薬剤師・歯科技工士・歯科衛生士・臨床工学技士・獣医師・家畜人工授精師・銃砲刀剣類所持者・射撃場の設置者や管理者・狩猟者・駐車監視員・警備員・救急救命士・調理師・製菓衛生師・ふぐ調理師・美容師・理容師・義肢装具士・柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師 など
-
救急救命・医療センター(参考:米国の例)
Secondary Survey
- ・ 外傷が無く、搬送に至る状況が不明
- ・ 意識不明で救急搬送された患者
麻薬類の摂取や睡眠薬、鎮静剤等の医薬品オーバードーズの可能性があります。
一時救命措置 Basic life support と並行して、体内に取り込まれた薬物類を迅速に検査。治療方針決定をサポートする基礎データを取得します。 -
Zero-tolerance policy
高校・大学・寄宿舎・軍隊などの団体生活の規律を維持する
- ・ 入学前、入寮前、夏・冬休み明け、復学前の検査
- ・ 不定期・臨時の日常的な集団検査
- ・ 薬物使用の合理的疑いがある場合は個別検査
- ・ 暴力行為等の問題行動がある生徒の指名検査
- ・ 薬物事案が発生した場合の一斉検査
-
定期健康診断・雇入れ時健康診断時の薬物検査(参考:米国の例)
違法薬物以外に依存症リスクの高い処方薬も検査します
- ・ 違法薬物6種(DOT規制)のほか処方薬依存症の検査
- ・ 依存症リスクの高い向精神薬等の検査
- ・ 抗うつ剤・抗不安薬・睡眠薬・鎮静剤等
-
運輸事業者向け検査(DOT米国運輸省規則準拠)(参考:米国の例)
飛行機・船舶・鉄道・トラック・バス・タクシー等操縦者の検査
- ・ 定期検査と臨時検査を組合わせて実施
- ・ 年1~2回程度の尿による定期検査
- ・ 乗務前・乗務後の臨時検査には唾液検査
- ・ 入社、配属前検査
- ・ 日常的に行う不定期検査(唾液)
- ・ 定期健康診断と同時に行う医師による薬物検査
- ・ 事故や重大な違反、事故被害に遭った場合の個別検査
- ・ 薬物使用の合理的疑いがある場合の臨時検査
- ・ 薬物6種(DOT規制)のほか向精神薬等の処方薬依存症の検査
-
プロスポーツ・興行・公営ギャンブル等(参考:米国の例)
選手やスタッフの保護・マネジメント
- ・ 定期検査と臨時検査を組合わせて実施
- ・ 年1~2回程度 尿による定期検査
- ・ 臨時・不定期の自主検査は唾液検査
- ・ 日常的に行う自主不定期検査(唾液)
- ・ 定期健康診断と同時に行う医師による薬物検査
- ・ 事故や重大な違反、事故被害に遭った場合の個別検査
- ・ 薬物使用の合理的疑いがある場合の臨時検査
- ・ 違法薬物のほか向精神薬等の処方薬依存症の検査
- ・ 競走馬用の検査キットもご用意しております
-
職域における薬物検査(参考:米国の例)
違法薬物以外に依存症リスクの高い処方薬など幅広く検査します
- ・ 定期検査と臨時検査を組合わせて実施
- ・ 年1~2回程度の尿による定期検査
- ・ 臨時・不定期の自主検査は唾液検査
- ・ 日常的に行う自主不定期検査(唾液)
- ・ 定期健康診断と同時に行う医師による薬物検査
- ・ 薬物使用の合理的疑いがある場合の臨時検査
- ・ 薬物6種(DOT規制)のほか向精神薬等の処方薬依存症の検査
-
芸能界・飲食店・娯楽施設・バー・キャバレーほか
唾液による簡易検査は、低コストで場所を選びません
日本で最も違反が多い違法薬物3種類に絞った検査キットがお薦めです
- ・ Gender free
- ・ トイレ不要
- ・ 店内や事務所で簡単検査
- ・ その場で結果が分かる
- ・ 最も若者が手を出しやすいとされる3種の薬物を検出
- 大麻
- マリファナ・ハシッシ
- 覚せい剤
- アンフェタミン[Smart drugs][Greeny]……多動性症候群ADHD症の治療薬
- 覚せい剤
- メタンフェタミン「Ice」「Speed」「シャブ」……東南アジアで大流行している錠剤型覚せい剤「Yaba(ヤーバー)」
臨時検査(唾液 ):MS-SALIVA-III